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経済解析室

第3次産業活動指数、鉱工業指数などを使って、経済産業の「今」について考えていきたいと思います。

各種指数で計測した業種別労働生産性の変化(その3);製造業の労働生産性は5年前と比較して0.4%向上に留まり停滞、電子部品・デバイス工業の生産性は大きく向上し、情報通信機械工業の生産は大幅下落

 昨今、サービスの生産性に関する話題が改めて注目をあびています。日本の産業界では長らく重要なテーマと位置づけられており、生産性をどのように把握するのかという点についても、様々な議論がなされてきました。

 今回は、経済解析室で作成している全産業活動指数、第3次産業活動指数、鉱工業指数を用いて、簡易的に労働生産性「指数」(2010年=100)を計測し、その変化を確認してみました。

 本分析による各産業の労働生産性の算出式は以下のとおりです。

 〇全産業の労働生産性=全産業活動指数/(雇用者数×平均労働時間数)

 〇サービスの労働生産性=第3次産業活動指数/(雇用者数×平均労働時間数)

 〇鉱工業の労働生産性鉱工業生産指数/(雇用者数×平均労働時間数)

 〇建設業の労働生産性=建設業活動指数/(雇用者数×平均労働時間数)

 

  さて、製造業の労働生産性は、2015年で指数値100.4という値になっていますが、これは、5年前の2010年に比べてサービスの労働生産性が0.4%程しか改善していないということを意味します。さらに遡ると、10年前の2005年の指数値は99.4で、2015年よりも低いですが、2007年には一時的に103台になったこともあります。しかし、リーマンショックによって、2009年に鉱工業生産が大きく低下し、労働生産性も急落しました。翌年には、大きく回復しましたが、消費税率引き上げ前の駆け込み需要で第1四半期に生産が伸びた2014年は別格として、製造業の労働生産性は、基準年である2010年のレベルを前後している状態です(2011年に労働生産指数が大きく上昇しているのは、東日本大震災のために労働データに欠落があるためであり、実際の労働生産性はもっと低いものだったと考えられるので、ここでは評価の対象としない)。

 

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 このような製造業の労働生産性の動きをもたらした、アウトプット=第3次産業活動指数と、インプット=労働投入量の変化を確認してみたいと思います。

 

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 まず労働投入ですが、雇用人数はリーマンショック以降緩やかに低下し、2012年以降はほぼ横ばいといった状況です。平均労働時間は2013年以降小幅な低下となっています。このため、労働投入量自体は、2012年以降ほぼ横ばいで、2015年にはほんの少し減少していたようです。

 製造業の労働生産性は、2010年には、リーマンショック前の平均的な水準には回復しましたが、その後(2011年の特殊な労働生産性の値を脇に置くと)、2013年まで緩やかな低下で、そこから少し回復ということになりますが、これはもっぱら鉱工業生産指数(アウトプット)の変動にマッチしたもののようです。ただ、2015年の労働生産性の上昇には、労働投入(インプトット)の低下も影響していました。

 

 製造業の労働生産性の変化を業種別にみると、どのような動きをしているのでしょうか。2010年と2015年の2地点間で比較をしてみました。

製造業(鉱工業)の労働生産性は、基準年である2010年からは0.4%の微増でしたが、「電子部品・デバイス工業」や「繊維工業」などでは労働生産性が2割以上の大幅上昇を見せる一方、「情報通信機械工業」では3割以上労働生産性が低下しており、「輸送機械工業」や「鉄鋼業」などでもマイナス16%以上の生産性低下を見せました。

 製造業(鉱工業)全体の労働生産性の変化が乏しい状況で、業種間の変化には、ばらつきが見られました。

 

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 それでは、これらの業種はどういった要因でこのような動きをしているのでしょうか。ここでは、労働生産性を計算する上で分子となる鉱工業生産指数の動きを「生産要因」、分母となる労働投入量(雇用者数×平均労働時間数)を「労働投入要因」として、要因の分析(基準年比に対する両要因の寄与計算)を行いました。

 すると、2010年比で低下となった「情報通信機械工業」と「輸送機械工業」では、低下の要因に違いがあることが分かりました。「情報通信機械工業」は、生産要因が大きく下押ししており、労働投入の削減が、2015年で54.9という生産指数(2010年の約6割)の低下に追いついていない状況です。

 他方、「輸送機械工業」は、2015年の鉱工業指数全体が97.8に対し、輸送機械工業の生産指数は98.8なので生産要因は健闘しているというべきですが、労働投入量が増加しており、労働投入要因が下押しの要因となっています。輸送機械工業については、海外現地法人の活動が活発で、日本と世界に立地する日系輸送機械工業の拠点からの出荷であるグローバル出荷指数の最新の値(平成28年第2四半期)は114.3、海外拠点からの出荷である海外出荷指数は140.8と、基準年である2010年平均からは、4割以上増加しているという状態です。輸送機械工業の国内生産量自体は、横ばい乃至微減ですが、グローバルな生産活動は活発であり、マザー工場としての機能、グローバル本社としての機能などを果たすようになっている日本国内の輸送機械工業事業所の労働生産性を評価する上では、国内生産だけを生産要因と捉えることに限界があるのかも知れません。

 

 労働生産性が上昇していた業種としては、電子部品・デバイス工業と繊維工業が他の生産性上昇業種の伸びとは一頭地飛び抜けた労働生産性上昇を見せています。両業種とも、労働投入要因が生産性向上に寄与していますが、生産要因は反対方向に寄与しています。繊維工業は、生産要因は生産低下方向に寄与していますので、生産量自体は低下しています。繊維工業の今年8月の生産能力指数も84.2と、2010年からはマイナス15%以上低下しています(低下順位は、情報通信機械工業、石油・石炭製品工業に次いで3番目。この2業種の生産性は低下している)。生産活動が縮小する中で、生産能力も労働投入も減らした結果、生産性が大きく上昇するという結果になっています。

 翻って、電子部品・デバイス工業は、今年は昨年ほどの勢いはなかったものの、2015年の生産指数は101.0と基準年を上回っています。8月の生産能力指数も102.6と、2業種しかない生産能力が基準年よりも伸びている業種です(もう1業種は、電気機械工業の102.5)。労働投入を大幅に下げつつ、設備増強・改善(生産能力指数の上昇)で労働生産性が向上しているという格好であり、労働から資本への代替が効率性向上に寄与しているということなります。

 

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 最後に、鉱工業生産指数のうち「加工型業種」と「素材型業種」について、労働生産性の動きを確認してみます。「加工型」というのは、○○機械工業という名称の加工組立型業種です(電子部品・デバイス工業を含む)。「素材型」というのは、鉄鋼業や化学工業などのプラント型の業種です。

 「加工型業種」の労働生産性は、リーマンショック時に大きく低下し、一旦は回復するものの、その回復度合いは限定的でした。さらに、2013年までは生産性が低下しており、2014年にやっと上昇に転じた結果、なんとか基準年の生産性のレベルを維持しています。ここには、やはり情報通信機械工業の大きな生産性の低下が影響しているものと思われます。電子部品・デバイス工業の生産性上昇では、この低下を補えなかったようです。

 「素材型業種」の労働生産性は、比較的リーマンショックの影響が小さく、ここ数年の水準はリーマンショック前よりも高くなっています。素材型に属する業種の中には、生産性が上昇していた繊維工業やパルプ・紙・紙加工品工業、窯業・土石製品工業のように労働投入要因が生産性上昇要因にプラス寄与しており、かつ素材型業種の生産能力指数も全体的に低下しています(非機械工業の8月生産能力指数は、92.7)。鉄鋼業や化学工業のように生産性が低下している業種もありますが、いわゆるリストラクチャリングが進み、リーマンショック前よりも高い労働生産性の水準が維持されていると言えるでしょう。

 

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 製造業の労働生産性は、全産業の平均的な生産性と比べて、その向上幅が小さく低迷しています。その中でも、情報通信機械工業の生産量低下による労働生産低下が際立っていました。他方、そこにデバイスを提供する電子部品・デバイス工業は、設備面での生産能力が増強され、労働生産性が際立って向上しています。

 また、全般的な業況が良いにもかかわらず、輸送機械工業では、労働生産性が低下するという計測結果となっており、グローバル化の進む日系製造業の生産性計測・分析の難しい部分が見えてきたように思われます。

 

 

 

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