経済解析室

第3次産業活動指数、鉱工業指数などを使って、経済産業の「今」について考えていきたいと思います。

「海外現地法人の日本からの調達」の存在感は、海外現地法人からみても、日本からみても「3割」。今世紀初めからの長期的推移では、各比率は漸減してきている。

 今世紀初めの平成13年度(2001年度)から、平成26年度までの製造業の海外現地法人のデータの推移を見ると、法人数や売上高・調達額は、ほぼ倍になっており、その画期は、リーマンショックの発生した平成20年度と東日本大震災の翌年である平成24年度であることが見て取れました。その結果、平成26年度においては、製造業海外現地法人数は、1万社を超え、売上高は130兆円弱、調達額は85兆円といった規模になっています。

 

f:id:keizaikaisekiroom:20160617140030p:plain

 

 日本の輸出向け出荷における生産財の占める割合が高くなっており、この生産財の相当量が日系製造業の海外現地法人によって購入されているとも思われることから、製造業海外現地法人の調達が日本の貿易にどのような影響を持っているのか、データをいくつか確認してみることにしたいと思います。

 

 まず、海外現地法人の販売活動と調達活動の結果、日本の貿易収支にどの程度の影響が実績として生じたと見なせるか検討しみます。

具体的には、貿易収支への黒字要因として、

○輸出誘発効果:海外現地法人の日本からの調達額(輸出が増える)

○輸入転換効果:海外現地法人の現地調達と第三国からの調達額(輸入が減る)

(海外生産分が日本で行われた場合でも、同じように日本以外から部品等を調達すること仮定すれば、この調達分が日本の輸入額に上乗せされずに済んだと考えられるから)

また、貿易収支への赤字要因として、

○輸出代替効果:海外現地法人の現地販売と第三国への販売額(輸出が減る)

○逆輸入効果:海外現地法人の日本向けの販売額(輸入が増える)

を合計してみます。

 

 今回は、その絶対額的効果というよりも、今世紀初めの平成13年度からその効果がどのように変化してきたのかを確認するため、平成13年度のそれぞれの額からの差分を年度ごとに集計してグラフ化するという手法をとっています。

 

f:id:keizaikaisekiroom:20160617140301p:plain

 

 このグラフを見ると、やはり海外現地法人の活動の一つの転機となったリーマンショック前までの期間においては、貿易収支へのマイナスの影響は起点である平成13年度(2001年度)からほとんど変わっていない状態で推移していました(海外現地法人の売上高と調達額の収支差が起点からあまり変わっていない)。しかし、リーマンショックからの回復が始まった平成22年度からマイナスの影響度合いが増え始めており、その傾向は平成26年度まで続いていることが分かります(平成13年度が20兆円マイナス、平成26年度は44兆円マイナスで、マイナス幅が20兆円拡大)。

 この収支差は、いわば海外現地法人の「粗利」であり、これが拡大しているということは、海外現地法人の収益の源泉が拡大しているということを意味します。よって、この差額が日本の所得収支として完全に環流していれば、貿易収支の赤字を相殺して、経常収支への影響は中立化されますが、海外現地法人の収益源泉が拡大すると、日本の貿易収支にマイナスの影響が出ると解釈できます。

 また、その効果の内訳を見てみると、黒字要因のほとんどは「輸入転換効果」、つまり海外生産に移行することで「しなくてすんだ輸入分」であり、日本からの調達の増加である「輸出誘発効果」の影響は小さく、それどころか、輸出誘発効果はリーマンショック直後や東日本大震災の年には、平成13年度と比べて赤字要因になっています(平成13年度と比較して日本からの調達額が少ないということ)。

 少なくともリーマンショック後は、海外現地法人の活動に基づく輸出誘発効果の貿易収支への黒字効果は、限定的になってきているということは言えるかと思います。

他方、赤字要因のほとんどは「輸出代替効果」、つまり海外生産に移行することで日本からの輸出ではなくなった海外市場向けの財出荷分であり、日本への逆輸入の影響が相対的に小さくなっています。

 この海外現地法人の活動の日本の貿易収支への影響を計るグラフを見て分かることは、近年、海外現地法人の事業活動が「海外から調達して、海外に販売」という構造であり、その傾向に拍車がかかっているということでした。

 

 では、海外現地法人の調達の仕入れ先別の大まかな構造を確認してみます。

 海外現地法人の調達は、「日本から」「現地から」「第三国から」に分類でき、それぞれの比率を計測できます。

 平成13年度段階でも、現地調達の比率が5割近くとなっており、今世紀の初めの段階で調達の「現地化」は相当程度達成されていました。日本からの調達比率は、平成13年度段階では4割ほどだったものが、平成26年度では3割を割り込んで、長期的に漸減傾向で推移しています。第三国からの調達比率は、他の調達先と比べると変化の乏しい状態でしたが、グラフをみると、東日本震災後(そしてタイの洪水)の翌年である平成24年度からは上昇トレンドとなっているように見受けられます。この年は、サプライチェーン脆弱性が議論になった時期でもあり、調達先を分散させるという行動がとられ始めたものと思われます。

 いずれにせよ、日本からの調達比率は、長期的に低下していることと、現地調達比率の方が、少なくとも名目金額ベースでは、日本からの調達比率よりも遙かに高いということだけは確認できるかと思います。

 

f:id:keizaikaisekiroom:20160617140440p:plain

 

 では、海外現地法人の調達額が日本の輸出額に占める割合の変化を確認してみます。すると、平成13年度に4割まではいかないもの35%を超えていた比率が、徐々に低下し、リーマンショック後の平成21年度に3割を切りました。平成24年度には比率の上昇が見られましたが、その後は、3割を下回る状態で横ばいという推移です。

 

f:id:keizaikaisekiroom:20160617140605p:plain

  

 海外現地法人の日本からの調達が、日本の経済、貿易にとって非常に重要なはずだという想定でこの分析をはじめてはいるのですが、実は、その存在感は、海外現地法人側から見ても、日本側からみても「3割」という結果です。

 そもそも海外現地法人の販売活動と調達活動を整理して財のやりとりである日本の貿易収支への影響を見ると、リーマンショック後、赤字要因が増加していることも確認できます(ただし、この解釈は、所得収支を経由した経常収支全体への海外現地法人の活動の効果を言っているのではない)。

 

 では、稿を改めて、海外現地法人の事業活動のグローバルな分布を、販売と調達に分けて検討してみたいと思います。

 

 

f:id:keizaikaisekiroom:20160617135617p:plain

 

 

◎ミニ経済分析のページ

日系製造業の海外子会社は、どこから部品や材料を調達しており、それはどのように変化してきたのか?;海外現地法人の調達行動の定量的、時系列的把握|その他の研究・分析レポート|経済産業省

 

◎スライドショー 

 

 

第45回海外事業活動基本調査結果概要-平成26(2014)年度実績-|海外事業活動基本調査|経済産業省

 

 

◎ミニ経済分析の一覧表

f:id:keizaikaisekiroom:20160212181140p:plain